バーナード・ハーマンは、1911年6月29日、ニューヨークで、ロシア系ユダヤ人の中流家庭に生まれた。 父は彼を音楽の道へ進ませたかったようで、オペラへ連れて行ったり、ヴァイオリンを習わせたりした。その甲斐あったのか、13歳の頃に作曲で入賞したのがきっかけで彼は音楽の道へ進むことを決心し、ニューヨーク大学へ進学、ピアニストで作曲家のパーシー・グレインジャーやフィリップ・ジェームズに師事した。またジュリアード音楽院では作曲とヴァイオリンをマスターし、20歳で「ニューヨーク新チェンバー・オーケストラ」という初めてのオーケストラを持つに至っている。
1934年にCBS放送の指揮者の一員となり、9年目でCBS交響楽団の首席指揮者となる。彼はどの指揮者よりも新作を発掘し世間に紹介することに熱心で、特に当時無名であった作曲家チャールズ・アイヴズの擁護者であった。1940年代にハーマンが初演した作品には、アイヴズやニコライ・ミャスコフスキー、フランチェスコ・マリピエロ、リチャード・アーネル、エドムンド・ラッブラなどあまり知られていない作曲家が数多く含まれている。無名作曲家の発掘という業績などで彼は多くの音楽賞を受賞するが、また彼が書き上げた交響詩「The City of Brass」や組曲、ノクターン、ドラマティック・カンタータ「白鯨」などの作品は、ストコフスキーやバルビローリ、オーマンディなどの指揮により演奏されていた。
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映画界へのきっかけは才人オーソン・ウェルズとの出会いであった。ウェルズ主宰のマーキュリー劇場は、このころCBSラジオに出演し小説や演劇を短編ドラマにして上演していたが、ハーマンはその音楽担当として作・編曲を手がけていた。ちなみに、1938年10月30日放送されたH・G・ウェルズの小説「宇宙戦争」を翻案した「火星人襲来」は、聴取者に本物と間違われパニックを引き起こしたが、その音楽指揮もハーマンの担当であった。 この事件の話題性によりハリウッドのRKOへ招かれたウェルズとともに、ハーマンもハリウッドへ。時にウェルズは24歳、ハーマン29歳。
1941年にウェルズの第1作「市民ケーン」を担当、新聞王ケーンの最後の言葉「バラのつぼみ」の謎を追って展開するドラマを、隅々まで的確にサポートするドラマティックでパワフルなスコアで映画音楽デビューを果たした。そして翌年、民話をベースにした悪魔と農夫の物語「悪魔の金」でアカデミー音楽賞を獲得。以降、ウェルズの第2作「偉大なるアンバースン家の人々」や名作小説の映画化「ジェーン・エア」、スリラー「戦慄の調べ」など、様々な作品を担当し、ドラマの内なるテーマに奥底まで迫るような個性あふれる音楽を書き上げていく。
「ジェーン・エア」以降、ハーマンは1954年まで20世紀フォックスのために様々な作品を担当するが、特に電子楽器テレミンをオーケストラに採り入れて不思議な効果を生んだ「地球の静止する日」や、10本のハープで海底世界の響きを創り出した「十二哩の暗礁の下に」は、彼の創意工夫の素晴らしさが光る逸品であろう。
また、ジュール・ヴェルヌ原作の映画化「地底探検」(1959年)やレイ・ハリーハウゼンのダイナメーション撮影による傑作「シンバッド7回目の航海」(1958年)も、彼の絶妙なオーケストレーションが活きた傑作である。
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1955年、映画監督アルフレッド・ヒッチコックとのコラボレーションの始まりがハーマンの最盛期を告げる。我が強く強烈な個性の持ち主である両者の出会いがどのようなものであったのか興味が湧くところだが、ともかく二人の共同作業は約10年、その間、「ハリーの災難」から「知りすぎていた男」、「間違えられた男」、「めまい」、「北北西に進路を取れ」、「サイコ」、「鳥」(効果音のみ)、「マーニー」と、ヒッチコックとハーマン両者にとっての傑作が連なっていく。
ブラックユーモア「ハリーの災難」の田園風景を彩る優雅なメロディー、リズミカルなスコアが緊迫感を生んだ「北北西に進路を取れ」、官能的な愛のテーマに管弦のオーケストレーションの華やかな響きがめくるめくような「めまい」、そしてモノクロ画面にはモノクロ演奏と言わんばかりに弦楽器のみをフルに駆使して斬新なスコアを創出した「サイコ」。
しかし、この名コラボレーションも「引き裂かれたカーテン」(1966年)で文字通り「引き裂かれた」形で終わってしまう。 これはスコアが完成したにもかかわらず、ユニヴァーサル社の「ポップな」音楽を、という圧力にヒッチコックが屈し、別の作曲家のスコアに変えられてしまったからで、これにショックを受けたハーマンはアメリカを離れ、イギリスへ居を移し作曲家としてよりも指揮者としての活動に専念する事になる。
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しかし、ヒッチと袂を分かって以降も、ヒッチコックのファンであったフランスのフランソワ・トリュフォー監督に乞われて「華氏451」や「黒衣の花嫁」、同じくヒッチ映画を信奉するブライアン・デ・パルマ監督の「悪魔のシスター」や「愛のメモリー」等を担当、確かな存在感を示した。そして、1976年のマーティン・スコセッシ作品「タクシー・ドライバー」は、トム・スコットのサックス・ソロを要所に響かせつつ、ダークでジャジーなオーケストレーションを展開させ、大都会ニューヨークが抱える暗部を絶妙に描き出した傑作スコアとなった。そして彼の遺作となってしまった。 1975年12月23日、「タクシー・ドライバー」録音終了後、次回担当作品であるラリー・コーエン監督の「God Told Me To」の未編集カットを観て、その後に監督と食事。そしてロサンジェルスのホテルに帰ったその夜、睡眠中に心臓血管の疾患によって亡くなった。64歳。まだまだ活躍してほしい逸材であった。
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1958 VERTIGO めまい
U.S.A. LP Mercury MG 20384
高所恐怖症が元で警察をやめ法律事務所に勤める元刑事(ジェームス・スチュアート)が、友人から妻の素行調査を依頼され、謎の多い彼女を尾行するうちに愛が芽生えるが、ある日彼女は僧院の塔から転落死してしまう... ピエール・ボワローとトーマス・ナルスジャックによる原作小説をアルフレッド・ヒッチコック監督が映画化。謎の女を演じたキム・ノヴァクの美しさが光る。「ハリーの災難」、「知りすぎていた男」、「間違えられた男」に続くヒッチコック=ハーマンのコラボレーション5作目。目まぐるしいらせん状の音楽効果が見事なプレリュード、不安を的確に表現する管と弦の響きの絶妙なバランス、弦の響きが陶酔させるほどに美しい愛のテーマ、千変万化にカラフルに織りなされるオーケストレーション、精緻を極めた管弦楽スコアの傑作である。
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1958 THE 7TH VOYAGE OF SINBAD シンバッド7回目の航海
U.S.A. LP Colpix CP 504
アラビアンナイトから材を得たファンタジーで、魔法にかけられ小人にされた姫を助けるために、様々な怪物たちと戦う船乗りシンバッドの冒険物語。主人公はアラビアンナイトとは直接関係ないので、「シンドバッド」ではなく、「シンバッド」である。 冒険の始まりを思わせるわくわくするようなアラビア風のタイトル曲。恐ろしさに少しユーモラスさをまぶしてはいるが、重厚で迫力ある管弦楽の響きが効果的な一つ目巨人のテーマ。ほとんど管楽器の響きのみで素晴らしい効果を挙げた巨鳥のテーマ。木琴のリズムが命を吹き込んだような骸骨戦士のテーマ。重々しい打楽器のリズムに低音管楽器が響くドラゴンのテーマなど、ハーマンが楽しみながら自由自在に創り上げたファンタジー映画音楽の傑作。
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